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すぎがき

杉垣

宮本 百合子

「中央公論」1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,051 字 · 30 页

青空文庫

「何なの」

出された手紙に目を通すと、峯子は腑におちない表情になって、

「ふーむ」

と慎一の顔を見た。

「何だか変な気がするわ。今どき、家なんて本当に建つの?」

「沢田の兄貴の地面がつかえて、建築家の沢田が建つと云うんだから、建つんだろう」

「だって――集合住宅なんでしょう? 小さいもんでもないのに。五十円ずつ十年の年賦にしたって……」

これから先の十年という年月の間、現在と同じ生活条件を動かないものときめてそんな計画を立てた発起人たちの生活への心ぐみも、峯子のこの頃の実感にはぴったりしなかった。峯子はあしたにも変らせられなければならない自分たちの生活を考えて、寧ろそのためにこそ用意するこころもちで暮しているのに。そして、それは今の日本の幾万組かの若い夫婦の生活感情でもあると思えた。

「沢田も息子をもったりしたら、きっとこういう考えにもなったんだろう」

スカートで素足へ草履をはいた峯子は、カンバス椅子の背に手をおいて、暫く黙っていたが、

「ね、私、つむじ曲りなのかしら」

ゆっくりまわって来て、慎一の前のところへ跼み、腕木へ自分の柔かい顎をもたせるようにして良人の膝にいる照子に自分の小指を握らせた。