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すぎこ
杉子
宮本 百合子
「新女苑」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,552 字 · 19 页
女で劇を書いて生活してゆくことさえ日本ではむずかしくて、杉子の学校の先輩の一人は、永年戯曲を書いていたのに、近頃思いがけないところで通俗小説をのせているのを見た。
その晩、却ってそんな話をさけて、スポーツマンである雪枝の夫の好みらしい学生っぽい陽気な大騒ぎをして遊んだ。
伊田も気取らない気質で、大豆を奪い合う「豚」という遊びの時なんか「おい、駄目だ駄目だ、ひどいよ」と、どら声をあげて、雪枝の夫にくみついたりした。
伊田のグループに杉子が加ったのはそれから二月ほどあとのことであった。
芝居好きということでは、母の毬子もまたその母親からうけついだ趣味をもっていて、弁護士であった杉子たちの父が十年ほど前に亡くなってからは、毬子は娘たちなんか誘って、地味にしかし自由にいろんな芝居を観ていた。築地の小劇場へもよく出かけた。英語に力を入れた外国人経営の女学校を出ている毬子の若い時代の気風が、歌舞伎通にするよりは、思い出話にも松井須磨子のことを語らせた。
伊田が、そういう毬子の話に生きた歴史の一頁の面白さを感じるのは杉子によく理解されたし、自分としてはただ見聞として思い出の下にしまわれていた話が、伊田の知識でおぎなわれて、毬子自身に新しい意味で味わいかえされるらしい楽しさも、杉子には優しい共感で思いやることが出来た。