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むらのせいこうしゃ

村の成功者

佐々木 邦

「現代」1928(昭和3)年9月~1929(昭和4)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,883 字 · 84 页

青空文庫

「何処かへ寄っている」

「待ち給え、着物を着て来るから」

と勝田君は裸体で話していたのだった。

二人は本町通へ出て桝屋旅館の前へ差しかゝった。この家は角町第一で、大演習の折、宮様のお宿を勤めたことがある。

「君、尾崎さんの威光は大したものだね。自動車が五台来ている」

と卓造君が感心した。自動車は町中に十台しかない。その半数が貸切になって並ぶのは総選挙の時に限る。

「何処かへ出掛けるところだ。待っていて見よう」

「うむ」

「僕は昨日お寺の門のところで一時間以上待った」

と勝田君は気が長い。成功に憧れる青年には偉人が神さまに見える。親しく拝む為めには百里の道も遠しとしない。二人は宿屋の前に棒立ちになって覗き始めた。

「あんたちゃ先刻から何か用かね?」

と宿の若いものが出て来て咎めた。

「いゝや」

「それなら彼方側へ寄っていておくれ。邪魔だあに」

「人が来れば退くよ。見たって宜いだろう?」

と勝田君は不服を唱えた。

「東京の尾崎さんは見世物じゃない」

と若いものまで尾崎さんを笠に着ている。

そこへ自動車が一台乗りつけた。

「おい、君」

と卓造君は目を円くした。

「何だい?」

「僕の伯父が入って行ったよ」