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ひがしやまじだいにおけるいちしんしんのせいかつ

東山時代における一縉紳の生活

原 勝郎

「藝文」京都大学文学部、1917(大正6)年8月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,142 字 · 134 页

青空文庫

そもそも文明の伝播なるものは、ある意味において伝染病と同様であって、同じ伝染病でも時と場合によって、伝染性の強弱一様でないごとくに、本質を同じくする文明でも、時代によってその波及力に差等がある。本質と伝播力とは必ずしも並行するものではない。しからばこの伝播力が何からして最も有力なる衝動を受けるかというに、それはすなわち政治である。政治は文化の一要素をなすのみでなくあわせてこれを波及せしむる原動力をなすものである。藤原時代においては、その文明の品位がいかに優秀であったにせよ、その制度がいかに整然たるものであったにせよ、その政治の実施に必要な統治力が微弱であったため、大いに伝播すべきはずでありながら、しかもその伝播ははなはだ遅々たるものであった。あたかも道路の予定線の網のみが系統的に整備しておって、しかしてその線をたどる通行人の極めて寥々たるがごときものである。しかして何故に統治力が微弱であったかというに、その原因は主として非尚武的な支那文明を過度に採用したからである。支那人が人種として尚武的であるか、あるいは非尚武的であるかは、しばしば論議せらるることであるが、これは今予の論ぜんと欲する点ではない。