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ひがしやまじだいにおけるいちしんしんのせいかつ

東山時代における一縉紳の生活

原 勝郎

「藝文」京都大学文学部、1917(大正6)年8月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,142 字 · 134 页

青空文庫

船舶というものの広く用いられなかったその昔のことならばいざ知らず、いやしくも航海の相応に行なわれるようになった以後の時代においては、日本のような環海の国にあって、交通が専ら陸路にのみ便るというわけのあろうはずがない、海に風浪の難があるというかも知れぬけれど、陸上にも天然の困難がないでもない。兵庫なるもののかつて用いられたことのない日本において、坦々たる大道の存在を足利時代以前に想像することは不可能であるからして、狭隘と峻険とは共にしばしば旅客の忍ばねばならぬ苦痛であったろう。また陸には覆没の憂いがないにしても、旅舎の設備の不完全は、海上の旅行者の嘗めずにすむところの欠乏であった。海には海賊の禍があるとするも、陸上とても群盗所在に出没した。この点においては海陸ほとんど択ぶところがない。されば乱世のために陸路が往々梗塞を免れなかったとしたところで、海というもののある以上、足利時代の交通がはなはだしく阻礙されたと考えるのは、少しく早計ではあるまいか。いわんや陸上の危険においてすら、足利時代必ずしも藤原時代よりもはなはだしかったとは、にわかに断言し難いことを考えると、われわれは強いて足利時代における文明の伝播を否定するにも当らぬことになる。