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まつかぜのもん
松風の門
山本 周五郎
「現代」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,862 字 · 26 页
事実は誰にも知れずに済んだ。そして宗利は初めて小次郎に優越を感じた。小次郎が神童と云われて、どんなに人々の賞讃を集めるとしても、宗利に受けた恩典かられることはできない。彼の持っている優れた能力を、宗利は自分の小さな掌に握ってしまったように思ったのである。
「そうだ、此処でこの眼を失ったのだっけ」宗利は二十年まえの出来事を思出しながら、ふと今日の引見に小次郎の姿を見なかったことに気づいた、「あのころ殿中へ相手に上っていた者たちの中で、四五人は此方に残っていた筈だな」
「たしか五名であったと心得ます」
「昔話をしてみたいと思うが、明日にでも揃って出るように計らって置け」
「承知仕りました」
小次郎がどんな顔をして出るかと空想しながら、宗利はふとまた盲いた方の眼へ手をやった。
その翌日、むかし遊び相手を勤めた者たちだけが、宗利の前に伺候した。年頃はみんな同じであるが、その頃の俤の残っている者はなく、孰れも見違えるほど変ったり老けたりしていた。然しその中に池藤小次郎はいなかった。ひとわたり思出の数々が話し尽されたとき、宗利は小次郎のことをたずねた。すると彼等は妙な含み笑いをした。