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いなかがえり
林芙美子随筆集
林 芙美子
林芙美子『林芙美子随筆集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:田舎がえり、落合町山川記、貸家探し、生活、文学的自叙伝、恋愛の微醺、朝御飯、着物雑考、新生の門、平凡な女。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,157 字 · 118 页
初めのうちは大変はずかしかったのですけれども、馴れて来ると、私は両親と別れて、一人で夜店を出すようになりました。寒い晩などは、焼けるようなカイロを抱いて、古本に読み耽りました。私の読書ときたら乱読にちかく、ちつじょもないのですが、加能作次郎と云うひとの霰の降る日と云うのを不思議によく覚えています。いまでも、加能作次郎氏はいい作家だと思います。加能氏が牛屋の下足番をされたと云うのを何かで読んでいたので、よけいに心打たれたのでしょう。私はその頃新潮社から出ていた文章倶楽部と云う雑誌が好きでした。室生犀星氏が朝湯の好きな方だと云うことも、古本屋で買った文章倶楽部で知りました。室生氏が手拭をぶらさげて怒ったような顔で立っていられる写真を覚えています。私は室生氏の詩が大変好きでした。大正十二年震災に逢って、私たちは東京を去り、暫く両親と四国地方を廻っておりました。暗澹とした日常で、何しろ、すすんで何かやりたいと云った熱情のない娘でしたので、住居も定まらず親子三人で宿屋から宿屋を転々としながら、私は何時も母親に余計者だとののしられながら暮らしていました。大正十三年の春、また、私はひとりで東京へ舞い戻って来ました。