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こたんのふうかくをはいす

枯淡の風格を排す

坂口 安吾

「作品 第六巻第五号」1935(昭和10)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,411 字 · 15 页

青空文庫

裏も表も悩みもない、単に日常生活の表面のみを辿って記録し報告する斯様な文章は、これを綴り方と言い、小説とは言わない。小説とは報告にとどまる叙事文ではないのである。裏も表もない会話であって、そうして単に出来事の報告にとどまる限りなら、小説の場合これを冗漫に書き連ねる必要は毫もないわけであって、「甥がすすめるので電話をかけ女を呼びよせた」と一行だけ書けば宜しいわけである。会話の行間に裏をにおわす何物もなく、まして会話のあることによって人物の面目が躍如とする、というだけの効能もないとなれば、この一齣は無駄であり、ひいて小説全体が小学生の綴り方以上の何物でもないのである。

徳田氏の眼が、自分の心の奥に向って、これ以上の深入りをさけるなら、当然これは小学生の綴り方と同列である。

娘のような恋人をもつこと、甥のすすめるままに東京から恋人を呼び寄せること、多少の嫉妬を起すこと、そういうことが一見飾らず偽らず隠さずという風に書かれてあるのだが、飾らず偽らず隠さざるが故かのように裸となって光を求め道を求めて彷徨する苦難な歩行者の姿は微塵もないのだ。のみならず、飾らず偽らざるが故に救われた安息者の静かな姿があるかと言えば、なかなかもってそうではない。