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そめきちのしゅぼん

染吉の朱盆

国枝 史郎

「サンデー毎日」1927(昭和2)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,824 字 · 35 页

青空文庫

「日本中に三十とはありますまい」

「ふうん」と又も参ってしまった。「そんなに数がねえのかなあ」

「ひどく若死にをしましたのでね」

「その死に方も変だったそうだな」

「よくご存知で、衰死したそうで」

「縁起でもなく死んだものだな」

「だから一層値が出ました」

「それは一体どういう訳だ?」

「すべて数寄者という者は、箔のついたものを好みますからな」教えるような態度である。

「箔にもよりけり、縁起でもねえ箔だ」

「当今死に絵さえ、はやっております」

「うん、成程」と、又参った。

「こいつァ初手から駄目らしいぞ」岡八しょげざるを得なかった。「ぼた餅は棚にはなかったよ」

あきらめて立とうとした時である。一人の女が這入って来た。

小紋縮緬の豪勢なみなり、おこそ頭巾を冠っているので、顔はハッキリ解らなかったが、たしかに大変な美人らしい。眼が非常に美しい。……非常どころか、とても美しい。……というより寧ろ凄いようだ。魅力! 全くそのもののようだ。

「いらっしゃい」と主人、現金な奴だ、揉み手までしてお辞儀をした。「毎々ごひいきにあずかりまして」だが、こいつはお世辞らしい。

「染吉の朱盆、ございましょうか?」