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りゅうえいひろくかつえぐら

柳営秘録かつえ蔵

国枝 史郎

「国民新聞」1926(大正15)年1月5日~15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,933 字 · 27 页

青空文庫

とは云え旗本の若殿だけに、風貌態度は打ち上り、殊には生来の美男であった。女の心を引き付けるに足りた。

この恋成就しないはずがない。

しかし初恋というものは、漸進的のものである。心の中では燃えていても、形へ現わすには時間が必要る。そうして多くはその間に、邪魔が入るものである。そうして消えてしまうものである。しかし往々邪魔が入り、しかも恋心が消えない時には、一生を棒に振るような、悲劇の主人公となるものである。

ある日主計と奥方とは、ひそひそ部屋で囁いていた。

5

「貴郎、ご注意遊ばさねば……」

こう云ったのは奥方であった。

「うむ、お杉と三之丞か」

主計はむずかしい顔をしたが、

「何とかせずばなるまいな」

「どうぞ貴郎から三之丞へ。……妾からお杉へ申しましょう」

「うむ、そうだな、そうしよう」

翌日三之丞が遊びに来た。

「三之丞殿、ちょっとこちらへ」

主計は奥の間へ呼び入れた。

「さて其許も二十二歳、若盛りの大切の時期、文武両道を励まねばならぬ。時々参られるのはよろしいが、あまり繁々来ませぬよう」

婉曲に諷したものである。

「はっ」と云ったが三之丞には、よくその意味が解っていた。