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かき

柿

山本 周五郎

「現代」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,565 字 · 25 页

青空文庫

「わたくしは亡くなった大旦那さまの側女でございました、産んだ子は大旦那さまのお胤でございます」

「なに、なに、……それは、……」

「なによりの証拠はこれを御覧下さいまし」

女はそう云って懐中から一通の書面を取出した。……兵馬が奪い取るようにして見ると、上書は辰之助に宛ててあり、裏には「父」と一字だけ印してあった。

封が切ってあるままに取り出して読むと、

冠省……医師の診立てにて、最早ながくは存命覚束なしとのことゆえ、取急ぎ一筆申遺し候。其許の母死してより既に十年余日、其間再三にわたって後婦を勧むる者有之候えど、父は亡き妻のこと忘れ難く其許の成人をのみ希望に固く節操を守り続け候。……さりながら、人の身ほど過ち易きはなく、五年以前福田城代として赴任し来りしより幾許もなく、ふとした心の緩みより召使いの琴に手をつけ申候。この不始末、若年の其許に申聞け候は汗顔とも慚愧とも申すべきよう無之、唯々愚しき父を御憫察のほど願入候。さて臨終に申遺すは琴の身上に候、近年健康勝れざりし父は、心を籠めたる琴の世話にて如何許か老年の心なぐさみ候いしぞ、親子の垣を取除きて、哀れなる友として父の心情をお掬取り可被下ば、なにとぞ我が亡き後、琴の身上たちゆくようお計い有之たく世に知られて家名の恥辱と相成ること無きよう、其許の御一存に任せ候まま呉