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かき

柿

山本 周五郎

「現代」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,565 字 · 25 页

青空文庫

「恐らくそうであろう、だが辰之助は自らそれを望んだのだ、いま呼び戻されて帰るほどなら、そのまえに方法を考えぬ彼ではない、……そうするのが最善とみたからしたのだ」

「では、このまま黙って見ていろとおっしゃるのですか」

兵馬は袴を掴んで云った。

「あれほどの男を、あらぬ汚名に曝したまま捨てて置くのですか、事情がすっかりわかっても、御家老はそうしろとおっしゃるのですか」

「汚名だと思うか、兵馬。……事情はおまえが知っている、儂も知っている、恐らくおまえの妹も知っているであろうが」

「……は」

「時が来れば珠玉は自ら光を放つぞ」

大学は微かに頬笑をうかべて云った。

「ただ一つおまえの為すべき事がある」

「……はっ」

「おまえの妹を辰之助に遣れ、与吉右衛門も望んでいた。おまえが行って仔細を話せばもう否とは云うまい、但し、表向には数年待つのだ」

「御家老、追いつけましょうか」

「向うは徒だ、恐らく温海の宿に泊っているだろう、これから馬で飛ばせば、朝までには追い付ける」

兵馬は莞爾として手を突いた。

「お口添えだと申しても宜しゅうございましょうか」

「役に立てるがよい」

「忝うございます、御免」