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かき

柿

山本 周五郎

「現代」1939(昭和14)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,565 字 · 25 页

青空文庫

彼はいつ辰之助が妹に求婚するかと、ながいあいだ待っていたのである。牧野家は八百七十石の老臣格だし、自分たち走川家は三百石そこそこの馬廻りで、家柄にはかなりの差があったけれど、父親同志の親交がそのまま彼等まで持越されて、幼少の頃から殆ど親族同様の往来をして来た。

兵馬は二歳の年長であったが、昔から辰之助に深く傾倒して、彼こそ未来の国老たるべき人物だと固く信じていた。

そしてその信頼はいつかしら、辰之助と妹と結び着けて考えるようになったのである、……兵馬は妹を愛していた、彼流儀の誇張した云い方をすれば「宝玉」のように大切な妹である。

――小房を仕合せにするためなら。

自分はどんな事でもしてみせると口癖のように云っている。そういう妹だからこそ、彼が辰之助と妻せようと考えたのは当然だろう。……そのうえ彼は、いつか辰之助の眼のなかにありありと妹に対する愛情が耀いているのを見たのだ。

――よし、牧野は必ず求婚する。

兵馬はそう決めていたのだ。

「小房、今夜も客だぞ」

家へ帰るなり、兵馬は元気な声で云った。

「だが酒は抜きだ、飯だけにするからうんと馳走を拵えて呉れ」