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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
けれ共、折々よこすお君からの便り、又、東京に居る弟の達からの知らせなどによると、眉のひそまる様な事がやたらとあった。
「どこもこんなもんよ。
栄蔵は、若いものには苦労させるのが薬だと云ってさほどにも思って居なかったし、又、今となってどう云ったところで、始まらないともあきらめて居た。
娘があんまり利口でもないしするから、片方の口は信じられないと、女の子によほど心を傾けて居ない栄蔵は、やきもきして、どうにかせずばとさわぐお節をなだめて居た。
仕舞には、きっと、
「今になって、何や彼やわしにやかましゅう云うてんが、知らん。
お前が、せいて、早う早う云うてやったんやないか。蒔いた種子位、自分で仕末つけいでどうするんや。勝手もいいかげんにしとけ。
と、とげとげしい言葉になって、気まずく寝て仕舞うのが定だった。
暗いラムプの灯の下で、栄蔵はたのまれて書き物をして居る。
落ちた処ろどころをそろわない紙で抑えた壁に、大きな、ぼやけた影坊子が、身じろぎもしないで留まって居る。赤茶色の箪笥、長火鉢、蠅入らず、部屋のあらいざらいの道具が、皆、テラテラ妙に光って、ぼろになった畳と畳との合わせ目から夜気がつめたくすべり込んで来る様だった。