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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
「まだ何ともきまらん。
けど、奥はんが大層同情して、けっとどうぞしてやるさかいに又明日来云うてやった。先の頃の事などパッキリ忘れて会うとくれやはったさかい、ほんに有難かった。
「そうだろうってねえ。
何しろ月々十円ずつ余分に吐き出さなきゃあならないんだもの。
いやなのは、私共みたいな貧亡人に限った事っちゃあない。
何と云っても、金の世の中さ。
お金は、川窪なんぞにと云う様に笑った。
「お前笑うてやが、私が川窪はんへも行かんでお前ばかりにまかいといたら困るやろが、
ひとが、云いにくい事云うて来てんに笑うもんあらへんやないか。
お金が口の中で、何かしきりにブツクサ云って居るのに見向きもしないで、お君の枕元へ行った。
「お帰り。
お寒おしたろ。
又、義母はんが、何か、やな事云うてやな、
ほんにあかん。
栄蔵は、娘の言葉が、胸の中にスーと暖くしみ込んで行く様に感じた。
新聞を畳んで、栄蔵は買って来た花の鉢をのせた。
真紅な冬咲きの小さいバラの花が二三輪香りもなく曲った幹について居る。
お君は、それを天竺から降った花ででもある様に、ためつすがめつながめて賞めた。