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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
お君だって家にとってさほど有難い嫁さんでもないし、又恭二位の男ならどこにだってころがって居るわね。
私は、嫁入り先をつぶす様な嫁さんは恐しくて置けないよ。
若し始めっから潰す量見で来たんならもう少し潰しでのあるところへお輿を据えたらいいだろう。
何も二人に未練はありゃあしない。
ああさっぱりしたもんさ、水の様にね。
あんまり調子づいて、心にない事まで云って仕舞ったお金は、ホッとした様に溜息を吐いて体をぐんなりさせて片手を畳に突いた。
ガリガリと簪で髷の根を掻いて居る様子はまるで田舎芝居の悪役の様である。
あまり怒って言葉の出ない栄蔵は、膝の上で両手を拳にして、まばらな髭のある顔中を真青にして居る。額には、じっとりと油汗がにじんで居る。
夜着の袖の中からお君の啜泣きの声が、外に荒れる風の音に交って淋しく部屋に満ちた。
昨日、栄蔵の買った紅バラは、お君の枕元の黒い鉢の中で、こごえた様に凋んでしまって居た。
夜になっても栄蔵の怒りが鎮まらなかった。
顔には一雫の紅味もなく、だまり返って腕組みをしたまま考えに沈んで居た。
お君は、額際まで夜着を引きあげた黒い中で、自分が出されて国に戻った時の事を、まざまざと想って居た。