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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
家の行末を思い、二人の不幸な子の身を思い、空しい廃人となって只、微かな生を保って居る自分を想いして、あるにもあられぬ思いがした。
運命の命ずるままに引きずられて、しかも益々苦痛な、益々暗澹たる生活をさせられる我身を、我と我手で鱠切りにして大洋の滄い浪の中に投げて仕舞いたかった。
始めの間は、家、子供、妻と他人の事ばかり思って居た栄蔵は、終に、自分自身の事ばかりを考える様になった。
出来るだけ早くこの辛い世間から抜したいと希う心、早く、無我の世界に入りたいと望む心が日一日と深くなって行った。
めっきり気やかましくなった栄蔵に対してお節は実に忠実に親切にした。
こう云うのも病気のため、ああ怒るのも痛みのため、お節の日々は、涙と歎息と、信心ばかりであった。
気の荒くなった栄蔵は、要領を得ない医者に口論を吹かける事がある。
「一寸も分らん医者はんや、
私はもう貴方の世話んならんとええ、
どうせなおらんものに、金をすてて居られんわ。
さ、さっさとお帰り、
もう決して世話んならん。
五六度医者といやな思いを仕合って栄蔵はたった一人の医者からはなれて仕舞った。