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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 页
私を可哀そうや思うたら、父はんとけ行かずといいから居とっておくれな。
泣きながら母親にすがられて達は、「それでも」とは云われなかった。
栄蔵は、細い弱々しいお節ばかりを傍によんで置いて夜もろくに眠らせなかった。
達は大抵の時、隣の間で、ぽつねんと粥の番をしたり本を読んだりして居た。
(八)
栄蔵が東京へ行く時に、大抵の金は持って行ってしまった後へ、思わぬ事が持ちあがったので、お節はこまこました物入りにいろいろ苦しい工面をして居た。
けれ共、達は、自分が貯金から出して来た三四円の金を皆、お節にあずけて、帰る旅費だけあればあとは勝手にしてよいと云った。
始めの間は、息子が自分の力で得たものを親の身として貰う事は出来ないと堅く心にきめて居たが、やはりいつとはなし心がゆるんで、ついついそれももうなくなって仕舞った。
栄蔵に云わないわけにも行かないのでお節は辛いのを押して夫にすべてを打ちあけた。土間の入口にある桐を売ると栄蔵は云った。止めてもそれより外に策がないのでお節も渋々同意して達を木屋の政と云う男を呼びにやらせた。
木屋の政の悪商法を知らないものはなかったけれ共その男の手を経なければ一本の木も売る事はむずかしかった。