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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

お祖父さんはとぼけたような顔でこう云った。

「するとできそくないの真桑瓜はおまえのほうじゃないのか」

ひとからこんな侮辱をうけたことはなかった。もしそれがお祖父さんでなかったら、くたくたにのして今戸焼の窯ん中へたたっこむところである。悠二郎は口惜しさのあまりぽろぽろ涙をこぼし、それをげんこで擦りながら云った。

「おいらあ、できそくないでも、真桑瓜でもありゃしねえ、なんにも、降参することなんか、ありゃしねえや」

「そうかな、本当かな」お祖父さんはまたにやにや笑った、「――怪しいもんだな」

彼は発奮した。意地っぱりならひけはとらない、ちきしょうと、歯をくいしばって頑張った。――もちろんそれほど難行苦行というわけではない、慣れてしまえばよいので、おまけによく注意すれば手足を伸ばす隙は幾らでもある。父が役所へでかけたあと、母の眼の届かないところで好きなだけ息抜きをすることができる。またその点では彼はもともと第一流の才があったから、そういう時と処を発見し、それを利用するのにてまひまはかからなかった。

学問のほうは茅野道之助という同藩の侍が、初め三十日ばかり素読を教えにかよって来た。