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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

御殿へあがりだして三度目の休みの日であったが、お祖父さんが「聖堂へゆこう」といって、朝早くいっしょに屋敷を出た。家へ帰ってから初めての外出である、それだけでも嬉しかったのに、聖堂へはゆかないで、浅草の舟仙へつれてゆかれたにはびっくりした。

「黙っているんだぞ、内証だぞ」

お祖父さんはこう念を押した。

舟仙では悠二郎を見ておつねが涙をこぼした。五つになったおみつは忘れたものか、くりくりした眼でこっちを眺め、側へ来ようとはしなかった。悠二郎は手早く袴をぬぎ着物をぬいで、「母ちゃん、おいらの着物出して呉れよ」こう云いながら髪の毛もほどいた。

「そいから頭も前のようにして呉れねえ」

「まあ坊ちゃんそんなこと仰しゃったって、まさかあなた」

「いいから好きなようにしてやれ」虚木老はこう云って笑った、「――半年も辛抱した息抜きだ、好きなように暴れて来い」

筒袖の脛っきりの袷に三尺、頭もちょいとひっ括っただけの、実にさばさばした恰好になった。

「わあすげえ、こいつはすげえや」

彼はとびあがって叫んだ。

「腰んとこが軽くって躯が浮いちゃいそうだ、屋根まで跳びあがれそうだ、わあすげえ、――母ちゃん、吉べえいるかい」