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くわのきものがたり
桑の木物語
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页
おみつはくやしそうに唇を噛む。
「おう待ってました、松吉にそいって呉れ、門限があるんだから早いとこ頼むってな」
「云うわよ、なんでもありゃしないわ、そう云えばいいんでしょ」
「云えばいいのさ、さっさと頼むぜ」
「わかったわよ、どうせいいわよ、きれいな顔をしてたって蔭じゃあそんなことをしているんだから、家じゃあ母ちゃんもあたしも待ってたんじゃないの、今日は家で悠くりして頂こうって、大騒ぎでいろいろ下拵えをして、芸人は誰と誰を呼ぼうかって、お父つぁんもいっしょに相談して、もういらっしゃるかしらってみんなで待ってたんじゃないの、それなのに」
「なんだ、泣くのか、こいつあ驚きだ」
おみつは泣きだし、正篤はにやにや笑っている。悠二郎は途方にくれ、いまさら云いなだめるわけにもいかず、さりとてそのまま立てもせず、ごまかそうとして、てれて、うろうろして、ついにはおつねの助けを求める。
「どうしてそうなんだろう、顔を見るとすぐ喧嘩なんだから、――おまえが悪いんだよ、なんだねばかばかしい、自分でへんなこと云いだしたんじゃないの、だから悠さんにからかわれたんじゃないか、嘘だよあんなこと、からかわれてるんじゃないか、ばかだねこのひとは」