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くわのきものがたり
桑の木物語
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页
「お庭の桑はどうしたでしょう、たしか六本くらい植えたんでしたね、――八本だったかしら」
「あれからもう七年経ってるじゃないか、一年に二本ずつ植える筈だったろう、おまえ忘れていたのか」
「じゃあずっと、あれから、二本ずつですか」
「おれのと悠二郎のと、……上屋敷へ戻ったらみにゆくがいい」
その年は久しぶりで小梅の勝んべに会った。三社祭りの雑沓のなかで、悠二郎が呼びかけると彼は赤い顔をし、おと年から下谷竹町の左官屋へいっていると云った。
「今戸の瓦屋の熊を知ってるね、あいつ板前になるんだって、いま中洲の百尺で皿洗いをやってるよ」勝はこんなことを云って、それから眼をしばしばさせながら、「――おらあ聞いたけど、悠ちゃんも信さんもお侍の子なんだってな」
綾瀬川でその年は正篤が五百匁あまりの鯉を釣った。またおみつの案内で水神へ舟でゆき、そこの百姓家のような小さなうす暗い茶屋で川魚料理を喰べた。
九月になってまもなく上屋敷へ帰ると、すぐさま悠二郎は日月亭の裏へいってみた。正篤の云うとおり、今年の春あたり植えたらしい二本を入れて、数えてみると十四本あった。初め植えたのは丈も九尺あまりになり、正篤が手入れを禁じてあるので、枝を四方へ伸ばせるだけ伸ばしていた。