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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

明くる年の夏、そしてその十二月も同様である。ただ遊びかたが段々に変り、芸人を呼ぶとか、ものを喰べにゆくとか、芝居や見世物を観るなどということが少なくなった。――参覲のいとまが延びて、国へ立ったのはその翌年の二月のことであるが、それまで下谷から浅草、深川、本所あたりの、ごみごみした汚ない、長屋のような町ばかり選って歩き、人足などと並んで食事をしたり、彼等と酒を飲んだりした。

「長く生きられないとしたら、生きているうちに、せめて自分の領地だけでも、少しはましな政治がしてみたい」

正篤はしばしばこう云って溜息をついた。

「あんなにみんな困っているじゃないか、あれだけ働いて満足に暮している者がないじゃないか」

それからまたこうも云った。

「第一番に重職の交替をやろう、新しい風をいれて、そうして思いきったことをするんだ」

二月。国許へ立つとき悠二郎は残された。正篤には供のゆるしを得てあったのだが、間際になってその係りから云いわたされ、いやもおうもなく江戸に残されてしまった。

「なにいいさ、久しぶりで悠くり遊ぶさ」

勘右衛門はへらへら笑っていた。

「気が向いたら舟仙へでもいって、たまにはおつねに孝行をしてやるがいい、おまえまだ母ちゃんと呼んでいるのか」