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くわのきものがたり

桑の木物語

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页

青空文庫

と云われたそうで、それからは誰も頼みをきいて呉れる者はなかった。

――お祖父さんも死んでしまった。

せめて祖父でもいて呉れたら、不平を訴えることもできるし、慰めても貰えるであろう。だが今はもうそういう相手もない。父は老職で勘定奉行を兼ね、兄は左門となのって納戸方吟味役になっている。母はもちろん愛して呉れているが、おつねのようにじかな愛しかたではない、どこかに風のとおるような隙がある。――彼は自分が孤独だということをはっきり感じた。そしてどうにもやりきれなくなり、じりじりして外へとびだすが、どこにも気のまぎれるあてはなく、ついしぜんに舟仙へ足が向いた。

それでもまだそのころは希望があった。正篤は待てという、追って沙汰をすると云うのである。そのうち本当に呼ばれるかもしれない、そういう希望もなくはなかった。――それが十月になって、ある日さっぱりと解決したのである。任免の衝に当る老職に呼ばれ、いよいよお召しかと胸をわくわくさせていった。ところがその老職は、「おぼしめすところあって今日より無役に仰せつけられる、御幼年よりの精勤を嘉賞あそばされ、お手許より金五十枚、御垢着、ならびに生涯三十人扶持を下しおかれる」