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くわのきものがたり
桑の木物語
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页
「だってあんなに仲がよかったのに……」
そんな会話が幾たびかあったが、やがて悠二郎は本気に怒った声でこうどなった。
「いいかげんにしねえか。こんどおれのまえであいつの名を云ったらぶん撲るぞ」
おみつはあっけにとられ、まじまじとこちらの顔を見まもった。そしてなにかわけがあると察したのであろう、それからは信さんの「の」の字も口にしなかった。
二年めの夏におみつは子を産んだ、女の子で、仙吉が「つならびにしよう」と云い、おなつと名をつけた。そのときちょうどいいきっかけだからと、仙吉夫婦は隠居して、家をそっくり悠二郎とおみつに譲った。――舟仙に猪牙船が七はいに釣舟が五はい、ほかに屋形船が三艘あり、川筋でも繁昌することではひけをとらなかった。
おなつが五つの年に長男が生れ、おみつの望みで勇吉と名づけた。
「あんたのような気性に育って貰いたいの、もういちどゆうちゃんて呼べるのもうれしいわ、ねえ、いい名でしょ」
おみつはしおのある眼で、良人の顔をじっとみつめた。悠二郎はてれ、眼をぱちぱちさせて脇へ向いた。
「でもあんたのせっかちと、わる悪戯だけはごめんだわね、年じゅう泥んこの瘤だらけ傷だらけ、出れば喧嘩というのもまっぴらだわ」