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くわのきものがたり
桑の木物語
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,815 字 · 79 页
それがいきなり着物をきちんと着せられ、生れて初めての袴をつけられ、腰にはこれも生れて初めての刀を差され、おまけに足袋まではかされた。髪もむろん武家ふうにきちっと結われているわけで、なにしろ躯じゅうが窮屈で息が苦しくって、今にも眼がまわってぶっ倒れそうな気持だった。
彼はまっ黒に日にやけ、眼ばかりぎょろぎょろしていた。忠左衛門はちらと見るなり、眉をしかめてそっぽを向いた。かな女はさすが母親である、彼のそのあさましい姿に胸をうたれ、抱きよせてぽろぽろ涙をこぼした。――兄の松太郎はびっくりして、ぽかんと口をあいて、そうして坐ったまま少し後ろへ身をしさった。悠二郎はすばやくこれを見て取り、
――こいつはたいしたこたあねえ。
こう思ってふんと軽侮の鼻を鳴らした。
祖父はこのほかにも家扶の渡辺老人や、七人の家士や、下男女中たちにも彼をひきあわせた。悠二郎はかれらがみんなくみし易いことをみぬいた。父親はにがてらしい、家来のなかで黒板権兵衛というのも、髭なんぞはやして団栗まなこで、ちょっとゆだんができないかもしれない。――だがほかのやつらはなっちゃねえ、芥子のきいてそうなやつは一人もいやしねえ。