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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
いや、それがさ、木の胯へうまいぐあいに乗っかってみると、その木にいっぱい平茸が生えているのだ、見すてるわけに行かぬから手のとどくところはみんな取って旅籠につめたが、手のとどかぬところにはまだいっぱい残っている。旅籠につめたのなどはまことにただの一部分で、いやはや、何とも残念だ、実にどうもひどい損をしてきた、心残り千万な、といまいましがっている。郎党どもが笑って、命が助かっておまけにいくらかでも平茸をついでにとって損などとは、と言うと、殿様が叱りつけて、馬鹿を言うものではないぞ、宝の山へ這入って空しく引上げる者があることか受領(国司)は至る所に土をつかめと言うではないか、と言ったそうだ。
この話は昔から国司や地頭の貪慾を笑う材料に使われておって、今昔物語にも、このあと尚数行あり、郎党がこれに答えて、いかにも御尤も、我々下素下郎と違ってさすが国を司るほどの御方は命の大事の時にも慌てず騒がず、こうして物をつかんでいらっしゃる、と言っておだてながら皮肉る言葉がつけたしてあるのだ。
地頭は到るところの土をつかめ、というのは愛嬌のある表現だが、この国司も愛嬌がある。