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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

道鏡は押勝よりも単純だった。そして、彼等に仇をする憂いはなかった。彼等はただ機会を冷静に待てばよかった。あせる必要はなかったから。

彼等は法王道鏡を天子の如く礼拝し、ひれふし、敬うた。陰口一つ叩かなかった。法王たることが道鏡の当然な宿命であることを、彼等が知っているようだった。

然し、法王という意外きわまる人爵の出現に、百川の策は天啓の暗示を受けた。それは道鏡に天皇をのぞむ野望を起させ、そのとき、それを叩きつぶすことによって、一挙に彼を失脚せしめる芝居であった。

折から彼等の腹心の中臣習宣阿曾麻呂が太宰府の主神となって九州へ赴任することになった。主神は太宰府管内の諸祭祀を掌る長官で、宇佐八幡一社のカンヌシの如き小役ではなかった。

百川は彼に旨をふくめた。

赴任した阿曾麻呂は一年の後、上京した。彼は宇佐八幡の神教なるものを捧持していた。それに曰く「道鏡をして皇位に即かしめば、天下太平ならん」と。

道鏡は半信半疑であった。天皇を望む野心を、夢みたことすら、彼はなかった。望む必要がなかったのだ。天皇は、すでに、いた。彼の最も愛する人が。彼のすべてである人が。