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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

陰謀政治家が崇拝せられる時期もあれば平凡な常識円満な事務家の手腕が謳歌せられる時期もある。家康がおのずから天下の副将軍などと評されるようになったのは、たまたま時代思潮が彼の如き性格をもとめるようになったので、彼は策を施さず、居ながらにして時代が彼を祭りあげて行った。

当時の時代思潮は何かといえば、つまり平和を愛し一身の安穏和楽をもとめるようになったということだ。一般庶民が平和を愛するのはいつの世も変りはないが、槍一筋で立身出世をし、戦争を飯よりも愛した連中が戦争に疲れてきた。

日本の戦争は武士道の戦争だなどと考えると大きな間違いで、日本の戦史は権謀術数の戦史である。同盟だの神明に誓った血判などと紙の上の約束が三文の値打もなく踏みにじられ、昨日の味方は今日の敵、そうかと思うと昨日の敵は今日の味方で、共通する利害をめぐってただ無限の如く離合する。一身の利害のためには主を売り友を売り妻子を売り、掠奪暴行、盗賊野武士から身を起して天下を望むのが自然であるから時代の道徳も良識もその線に沿うているのは自然である。

親類縁者といえども信用できず、又、信用しておらず、常時八方に間者を派し、秘密外交、術策、陰謀は日常茶飯事だ。