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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
彼はただ肚をきめていた。なるようになれ、死ぬか生きるか。そして彼はともかく自分をたよって逃げこんできた三成を殺すような小細工はできないのだ。うられた喧嘩は買うが、逃げこんだ敵は殺すことができない。家康はまさしく温和で、モグリのできない人であった。
関ヶ原で勝つまでは何が何やら目算の立てようもなかったろうと思われる。淀君派と政所派の対立だの、反三成党の発生だの、それらは曾て目算に入れようもなかったことで、まったく目新しい現実であり、彼は現実に直面して一つ一つ処理するだけで精一杯であったろう。そしてそれらの現実の勢いというものを嗅ぎわけて、その勢いに乗れるところまでは乗ろうとする。副将軍むしろ摂政というような格式で諸侯の拝賀まで要求する、どこまで勢いに乗って行けるか、ともかく最後は戦争だ。それだけは分っていた。全てをその一戦に賭ける肚だけはきまっていたが、そこから先の目算はなかった筈だ。
彼が始めて天下をハッキリ意識したのは関ヶ原に勝ってからだ。ここで始めて慾というものがでてきた。其時までは肚をきめて一々の現実に対処するのが精一杯というだけのことであった。