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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
人々がものの三四十間も歩いたころ、うしろに奇異な大音響が湧き起った。低く全山の地肌を這いわたる幅のひろいその音響を耳にしたとき、すでに人々の踏む足は自ら七八寸あまり宙に浮き、丹田に力の限り籠めてみても、音の自然に消え絶えるまで、再び土を踏むことができなかった。
驚いて、草庵の方を振返ると、和尚は柱に縋りつき、呼吸は荒々しくその肩をふるわせていた。
再び大音響を耳にしたとき、和尚の法衣は天に向って駈け去るが如く、裾は高々と空間に張りひろがり、人々の足は自然に踏む土を失って、再び宙に浮いていた。
庵寺の屁っこき坊主はの
山の粉雪も黄色にそめ
春のさかりに紅葉もさかせ
おないぶつに尻向けて罰当りとは面妖な
仏様も金びかりなら
目出度い 目出度い
あるとき、和尚に依頼の筋があって、草庵を訪ねた村人があった。
訪うまでもなく、坐禅三昧の和尚の姿が、まる見えであった。
「お頼み申します」
と、訪客は和尚の後姿に向って、慎しみ深く訪いを通じた。趺坐の和尚に微動もなく、返事もなかった。四たび、五たび、訪客は次第に声を高らかにして、同じ訪いを繰返したが、さながら木像に物言う如く、さらに手応えの気配がなかった。