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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
ただ自らの笑声のみ妖しく耳にたつことを知ったとき、むんずと組みついた者のために、旅人はすんでに捩じ伏せられるところであった。必死の力でふりほどき、逃れようと焦ってみたが、絡みつく者は更に倍する怪力であった。精根つきはてて抵抗の気力を失ったとき、組みしかれた旅人は、毛だらけの脚が肩にまたがり、その両股に力をこめて、首をしめつけてくることを知った。
ふと気がつけば、草庵の外に横たわり、露を受け、早朝の天日に暴されている自分の姿を見出した。
村人が寄り集い、草庵を取毀したところ、仏壇の下に当った縁下に、大きな獣骨を発見した。片てのひらの白骨に朱の花の字がしみついていた。
村人は憐んで塚を立て、周囲に数多の桜樹を植えた。これを花塚と称んだそうだが、春めぐり桜に花の開く毎に、塚のまわりの山々のみは嵐をよび、終夜悲しげに風声が叫びかわして、一夜に花を散らしたということである。この花塚がどのあたりやら、今は古老も知らないそうな。
(昭和13年『文体』2号)