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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
あいつに散々あやつられたあげく菱の密生した沼へ身を投げて死んだ若者が二人もあります。たとい男が身を投げたって、だいいち昨日の男を今日は忘れているのですよ。貴方の場合にしたって、今日貴方に気があります。そうしてあいつはあの岩角にまたがり、異体の知れぬ悦楽の亢奮に酔いながら、石をだいて貴方の通るのを待ちかまえていたのです。殺意だとか罪悪だとかそんなものじゃないんです。子供がパチンコで豚をねらうよりよっぽど無邪気で罪悪の内省がないのですよ。いじらしい女です。正体はただそれだけでつきるのですが――」
禅僧の語気には、旅人が呆気にとられてしまうほど熱がこもってきたのであった。そうしてこれからどうなったか、然し旅人の話は村人の噂に残っていない。
お綱の逸話では、煙草工場の女工カルメン組打の一場景に彷彿としたこんな話もあるのだ。
時は盆踊りの季節。ひと月おくれの八月の行事で、夏の短い雪国では言うまでもなく凋落の季節、本能の年の最後の饗宴でもある。盆踊りは山の頂きのぶなに囲まれた神社の境内で、お綱も踊りに狂っていた。その日のホセは道路工事の土方で、居酒屋で酒をのみながら、店の老婆を走らしてお綱を迎いにやったが、お綱は踊りに狂っていて耳をかそうともしなかった。