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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
男達が何かしら一度の気配で遣り切れない憂鬱にはまり込んだとき、麻油も血の気ない興ざめた顔でいるので、矢張りこの女でもそうかと思うていると、それは一座とまるで違った軌道でそうなっているのであって、急に顔をもたげて気がついて男の顔を一つずつ新発見のように見廻しはじめたりするので、男達は愕然として咄嗟にめくるめく狼狽のさなかで故里を思い出したりするのであった。
麻油は二十二歳まで(男達は三十がらまりであった)女王の気持でいることが出来た。或日一行に伴われて孤踏夫人なる女人の許へ行った。これは痴川の女であって閨秀画家であるが、三十五で二十四五に受取れる神経質な美貌であった。男達の憂鬱と同量の狂躁を帯びた華やかさで孤踏夫人は上品に話したり笑ったりした。その部屋の空気には霧雨のような花粉が流れていて、麻油にはそれが目や足の裏に沁みて仕様がなかった。麻油はむっつりして黙り込んでいたのである。
それから数日して痴川が麻油に会うと、麻油は変な顔をして俯向き乍ら、「孤踏夫人て、あんた好き? ……」又沈黙して今度は一層際立った顔をしながら、「あんた、あの人と一緒に死ぬ気? ……。