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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

坂口安吾『桜の森の満開の下』。同一底本的分册已合并为一书。收入:土の中からの話、家康、閑山、禅僧、小さな部屋、道鏡。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页

青空文庫

――というような書出しのものであったが、書き出してみると次第に鬱積したものが昂ぶってきて混乱に陥り、結論だけが妙に歴々と一面にはびこってきてもはや激情を圧える術もなくなったので、改めて次の意味を率直に、いきみ立つ胸を殺して書きだした。

「私は君を殺す。君が私に殺される幻想を恍惚として飽くなく貪るのがここ数年の私の生き甲斐であった。君は地上の誰よりも狼狽してくであろう。現に私の幻想の中で、君は最も醜い姿で七転八倒している。私はそれをやがて実際に見ることになろう。呵々」

其れをぶらぶらと懐手に抱え乍ら、変に落着いた蒼白い足どりで投函に行った。末枯れた冬ではあったが、慌しいどんよりした薄明の街であった。その時彼は痴川殺害の事実に就ては実は殆んど考えてはいなかった。ただ彼はこの手紙を受け取った痴川の狂暴な混乱を思い浮べるだけで満悦を感じていた。数日が流れた。無論返書は来なかった。すると伊豆はふいに不安になり出した。手紙の効果に就てひどく疑り出したのである。若しや、あれを読んだ痴川が忽ち伊豆の内幕を見すかしたような憫笑を刻み例の毒々しい物腰で苦もなく黙殺し去った場合を想像するに、体内に激烈な顛倒を感じるような苛立ちを覚えた。