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ばいしのつえ
梅颸の杖
吉川 英治
「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,966 字 · 32 页
ほそぼそと、廂に雨のうつ、秋の晩で、
『母上、ちと、お体でも揉みましょうか』
書斎を出た山陽は、腰が痛むといって、早めに寝た母のそばへ寄った。
梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)は、遠慮なくうなずいたが、
『そなたも疲れて居ように』
『いえ、私の疲労は、一酌で散じまする。秋の雨は、老のおからだには、殊にご不快でございましょうから』
『わしもそろそろ広島へ帰ろうと思う。夢のように、半年を過しました』
『京都の冬は底冷えがいたしますから、冬はやはり広島の屋敷でお暮しがよいと存じます。然し、永い御滞留で、後の淋しさはひとしおでしょう』
話しながら、山陽の手は、骨ばった母のからだに哀れっぽい宥りをもって、肩から腰の辺りをそろそろと揉んでいた。
梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)は、快げに眼をふさいでいるので、寝入ったのかとさえ思えたが、ふと、
『襄』
と、呼んだ。
『はい』
『そなたに揉んで貰うことも、久しい前のことのう』
『殆ど二十何年ぶり。広島の屋敷におりました頃は、稀には、お伽もいたしましたが』
『それも、あの頃のは、そなたがわしから遊興の金をせびる手であった。