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ばいしのつえ

梅颸の杖

吉川 英治

「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,966 字 · 32 页

青空文庫

そうしては、屋敷を出ると、悪友どもと一緒になって、何とやら狂句をいうて、わしの甘いのを笑い合うたそうじゃの』

『ははは。そうそうあの句は……おふくろは勿体ないが騙しよい、と申す柳樽でした。手島の伜が聞きかじって居ったのです』

『おふくろは勿体ないが騙しよい。……成程のう、そういう穿った学問は漢学にはないのう』

『父上の解しない半面でございます』

『わしも知らぬ』

と、梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)は暫く口をつぐんでいたが、

『けれど、子供はやはり、お父上のように、鬼になって育てねばいけぬ』

『然し、私の今日あるのは、父上の峻厳な御教育のほかに、どこまでも甘い、どこまでも許してくださる、母の慈愛がございました』

『とすると、わしは今、その二つを持たねばなりませぬな』

『世の中に、自分を叱ってくれる者のないこと、こんな、淋しいものはありませぬ。父上が世を去られた途端に感じたことでございますが、人間は、たえず自分で自分を鞭打つことはいたしますが、自分の力では、醒めぬことがござります。そんな時に、あの怖しい父上の力が、打って、打ちすえてくれたらと、あの厳格なむずかしいお顔が慕わしく思われるのでございます』