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ばいしのつえ
梅颸の杖
吉川 英治
「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,966 字 · 32 页
やはりごまの蠅の手際をもって奪りたいと、機を待っていると、それを携えて、今日の山陽の外出を見かけた。で、早速仕事をしたのである。案外、楽々と本望を達した。
然し、それを手に入れて、大坂の町を二刻と歩かないうちに、辻々の自身番から、忽ち怖い眼が自分に光り出した。
で、或る想像がついたので、すぐ杖を捨てて、それを持ってはいった大塩家の外に立ち、山陽が帰るのを待って居たのである。――と、ごまの蠅の四郎次は溜飲を下げて笑っている。
『ふふむ。愉快だな、お前たちの世の中は。陽明学の世話もやけないし、やっかみ屋の道家先生の蔭口もない。ありのままだ。もしおまえ達が戦国に生れていたら、或は、わしの筆にのる人間だったかも知れない』
『とにかく、書いておくんなさい、あれを』
『それを持って、仲間に示すというのか』
『何しろ、半年以上もかかりましたから、威張るわけにゃ行きませんが、顔が立ちます』
『よろしい、書いてやる。ここでは筆墨がない』
『旦那、いや先生、失礼でございますが、この方はいけませんか』
と、四郎次は、指で輪をこしらえて、飲む真似をしながら、
『どうでしょう、ちょいとそこらで。