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ばいしのつえ
梅颸の杖
吉川 英治
「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,966 字 · 32 页
眼の高いのを充分に誇り得た前の男は、
『今の腕じゃ、四郎次には、一年かかったって、あの杖は盗れッこはねえ。どうして、婆あさんの方が遙かに役者が上手だ』
と、恥かしめた。
『きっとだな』
『持って来い、首をやらあ』
『よし、洗っておけよ』
四郎次は、それから、もう纜を解きかけた便船へ飛びこんだ。だが、梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)の杖は、どうしても盗れなかった。
考えてみると、彼は、その梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)から、理由のない二朱の南鐐をめぐまれていた。
こう意地の仕事になってみると、そんな金を貰っているのは不快な気がしたので、大坂へ着いた日、八百長に落着くのを見届けてから、魚の贈り物にして、返してしまった。
以来、彼は、梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)の行くところには、蠅という名の如く尾いていたが、どうしてもその杖を盗る隙がなかった。
四郎次の意地は、だんだんに躍気となった。そのうちに、梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)は広島へ行ってしまった。
杖は、三本木の家に残して行ったという事は明白だが、そこへ忍んでいったのでは、仲間の者に大きな口がきけない。