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ばいしのつえ
梅颸の杖
吉川 英治
「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,966 字 · 32 页
髷や、こげ茶の絹の羽織や、青縞の何時も書画会につけて出る袴や、何気ない風采を作っている箇々のもの迄が、みな、四十五の年齢までに彼の成し遂げて来た超人的な業蹟のかがやきを思わせぬものはない。――味噌の味噌くさいやつ、学者の学者くさいのを嫌った彼にも、その意識はあった。つとめて大家ぶるまいと心がけながら、威厳も持とうとする複雑な得意のうちに、きょうの迷惑は、やはり悪い気持ちのものではなかった。
『あ、お見えなされた』
そこへ、兵庫の浜から梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)の駕が着いた。
×
梅は、連れて来た若党を、すぐに便船へ帰して、ひとりになって、わが子とわが子の知己の迎えをうけた。
もう一挺の駕籠からは、誰も降りる様子がない。それには、孫や嫁や知人へ頒つ土産物だけが乗っていた。
卑屈な悪口屋の儒者が、瓜園の老媼と言ったように、彼女は、きわめて質素な田舎のお婆あさんでしかなかった。ただ、上に纒っている被布と、駕を出て、手についていた象牙がしらの精巧な杖だけが、頼春水の未亡人らしくあった。
『襄か。ご苦労じゃの』
山陽へは、その眼を見て、こう言っただけで、梅※(「風にょう+思」