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きょうゆう

梟雄

坂口 安吾

「文藝春秋 第三一巻第八号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,160 字 · 31 页

青空文庫

全てが道三のやらないことであった。

「六尺五寸もあって、それで人前で屁をたれることも知らないバカだ」

道三の毒舌は人々を納得させるよりも、むしろ人々を義龍に近づけ彼らの団結を強くさせる役に立った。その勢力は次第に大きくなった。

「義龍公は土岐の血統だ。美濃の主たる正しい血だ」

その声は次第に公然たるものになってきた。

稲葉城は大きい城であった。しかし一ツの城の中に、その城の主人と、主人を仇敵と狙う子供がそれぞれの部下をかかえて一しょに同居していることは、差し障りがなければならない。

ところが道三は案外平気であった。

「六尺五寸の化け物め。いまにオレが殺されるぞ」

義龍が土岐の血統と名乗るようになったのは、まだ二十の頃からでもう十年ちかくなるのである。彼が土岐の血統なら、道三は彼の父ではなくて、仇である。当り前の結論だ。

道三は自分の立身出世のために人を殺す機会には、機会を逃さず、また間髪をいれず、人を殺してきたものだった。彼は人の顔を見るたびに考える。いまこの人間を殺すこともできるな、と。人間どもが平気な顔で彼と対座しているのが奇妙な気持になることもある。