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しいのき

椎の木

豊島 与志雄

「経済往来」1934(昭和9)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,870 字 · 52 页

青空文庫

」

「だめよ、もう遅いから。いけませんよ。」

小鈴は頭ごなしに押えつけようとしたが、川村さんは駄々をこねだした。話をしながら飲んでいたその酒が、話がすむと共にいちどに発してきたものらしい。小鈴は叱るようにしてなだめるし、川村さんは駄々っ児のようにむちゃを云いだした。

「ごらんなさい、牧野さんが笑ってるじゃありませんか。」

「ははあ、牧野君か、飲んでくれよ、僕の回復祝いだ。」

良一は川村さんのそんなところを初めて見たし、一昨日まで高熱でねていた川村さんのことを思いだしたりして、不思議な気持になると共に、いつしかもう酔っていた。そして自動車で家へ送りとどけられたのは、三時近い頃だった。

十日ばかり過ぎて、良一は川村さんから速達の葉書を受取った。――この葉書読み次第、電話をかけてほしい。とそれだけの、如何にも川村さんらしいものだった。

良一は竹山のことが気になっていたので、近くの自働電話へかけつけていった。川村さんが電話へ出て、隙だったらすぐに来いとのことだった。

行ってみると、川村さんは二階の書斎にねそべって、何の屈託もなさそうな様子をしていた。小鈴が来ていて、やはりこの前のような束髪で、はでではあるが素人らしいみなりをしていた。