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しいのき

椎の木

豊島 与志雄

「経済往来」1934(昭和9)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,870 字 · 52 页

青空文庫

彼女も朗かな顔付だった。

「やあ、こないだは……。家に帰って、叱られやしなかったかい。」

むっくり身を起した川村さんは、言葉の調子にも似ず、そして屈託のなさそうな様子にも似ず、何となく元気がなかった。

「実は、竹山のことを君に報告しようと思って来て貰った。思いがけない結果になったものだから……。」

その結果というのが、良一には想像もつかないことだった。――

あれから、川村さんはどういう風に竹山父子を対面させようかと思いあぐんで、一日一日延していた。すると、この前の日曜の午後、竹山茂樹がやって来た。

「先生、研究が完成しました。すぐに来て下さい。」

その、語尾が曇って、眼は全く据ったきりで動かなかった。そして靴のまま座敷にあがりこんでいた。

川村さんは首を傾げたが、とにかく、訳をたずねてみると、最も嫌いな最後の一つの顔が、写真にとれたというのだった。而も何枚もとれた。大勢のスパイが出て来て邪魔しようとしたが、遂に勝利を得た……。

川村さんはぎくりとした。竹山を連れて自動車を走らせた。

家の中はしいんとしていた。上りこむと、母親が真蒼な顔をして、彫像のように坐っていた。