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くすのきのはなし

楠の話

豊島 与志雄

「文章世界 第拾四卷第四號」博文堂、1919(大正8)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,820 字 · 22 页

青空文庫

ただ今になって考えると、凡ては父が余りに寛大なお殿様式な夢想家だったことから由来したものらしい。

そういうことを、私によく分らないようなことを、長々と云ってきかせながら、父は神経質な額をし、母は時々涙ぐんだ。なぜ父母がそんなに心を悩ましているか、私にははっきり分らなかった。退屈な話がすむと、私は平気でこう云った。

「お金なんかすっかり無くなったってかまやしない。そんなことはどうでもいいや。」

すると母は眼を瞬いて涙をほろりと膝に落しながら微笑んだ。私はその涙の中の微笑を美しいものに感じた。母に対してそういう清い美しさを感じたのは、其後一度きりない。亡くなった父の墓標の前に母が立った時。

私の言葉をきくと、父は非常に陰欝な顔をした。私は何が父の気に障ったのかどうしても分らなかった。それでも父は、その晩少し酒を飲んで、私にも二三杯飲ました。

二、三杯の酒に私は頭がぼーっとしてしまった。そして火鉢の側にねそべりながら、父と母との話をきいていた。何の話だかよく分らなかった。そのうちに楠という言葉が二、三度私の耳に達した。私は起き上った。

「楠だけは取って置きましょうよ。