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たてごし

楯輿

山本 周五郎

「日本士道記」晴南社創立事務所、1944(昭和19)年12月

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 8,377 字 · 17 页

青空文庫

思いきって殆んど陣頭まで舁きこませた与八郎は、「よしここでおろせ」と楯を叩いた、そして踏みしだかれた秋草の上へ楯がおろされると「おれに構わず突っこめ」と叫んだ、四人の者は楯をとりかこんだ、「われわれはここにおります、ごいっしょに討死を致します」「ばか者……」与八郎は拳をつきだして罵った、「おれといっしょに死んでなんの役にたつか、これが一期の戦場だぞ、突っこめ、突っこめ……」罵りながら片膝を立て、ぎらりと太刀を抜いて高くふりかざした。

敵陣へ向ってひっしと斬りこんでゆく四人を見おくりながら、かれは刀を脇にひきつけ、噛みつくような眼であたりを見まわした、……とうとう此処まで来た、そう思った。此処でなら死ねるぞ、此処で死ねればもう恥かしくはないぞ。自分でも案外なほど心はしずかだった、前方およそ二十間の近さで敵味方が槍を合わせていた、緒戦ながら烈しい迫合で、脇から味方の抜刀隊が斬りこんでゆき、敵の一角が崩れたつとみる間にこんどは味方の左翼が圧迫されてゆるぎだした、押しつ返しつ、乱離たる旗、馬じるし、差物などのはためき狂うさまや、叫喚や呶号や物具の相い撃つ響きが、ひとつになってどよみあがりわきかえっている。