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えのきものがたり
榎物語
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年9月~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,519 字 · 67 页
誇張していえば、生きていても死んでも、かれらには縁のないことにちがいなかった。
「それならなぜそのままにしておいてくれなかったのだ」とさわは独りで呟いた、「あたしのことなど爪の先ほども気にしなかったくせに、国吉と逢ったらあんなひどい騒ぎかたをした、僅か三日とはいえ、あたしを押籠めにしたし、国吉には暇を出した」
「かれらはなぜあんなことをしたのだろうか」とさわはまた独りで反問した、「あたしが河見家の長女であり、国吉が下男で、身分が違うからだとしよう、――そうだとして、みんなは一度でもあたしのことを大切に扱ってくれたろうか、ほんのちょっとでも、あたしのことで心配したり、気を使ってくれたことがあるだろうか」
年が明けて三月になると、妹のなかが嫁にいった。それも田舎ではなく、江戸日本橋の絹物問屋で、越前屋茂兵衛という老舗の、長男の妻として娶られたのであった。小出は昔から生糸や絹布の集散地で、江戸から買付けに来たり、こっちから荷を送ったり、定期的に江戸と連絡のある商人が幾人かいた。その中で近江屋多助というのが河見家と親しく、越前屋となかとの縁談も多助がまとめたものであった。