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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

主水は頭を垂れた。

「それは、――」十左衛門は睡をのみ、見えない眼で甲斐をさぐり見ながら訊いた、「それは、原田どのが推察されたということでしょうな」

「私は事実から眼をそむけないだけだ」

「しかしそれが単なる推察でないとしたら、どうして早くその事実を告発しなかったのですか、もっと早くそれを告発していたら、これまでに払われた多くの犠牲は避けられたでしょう、七十郎とその一族の無残な最期も、避けられたのではありませんか」

「そうかもしれない、だがそれなら、どこへどう告発したらいいか」甲斐は囁くような声で叫んだ、「どこへだ、十左衛門、どこの誰へ告発したらいいのだ」

これまでに甲斐が、そんな声でものを云ったことは、いちどもなかった。十左衛門はながいあいだ親しく甲斐に接して来たが、そのようにするどい、そして悲痛な響きのこもった声を聞くのは初めてであった。杖を持った手をふるわせながら、細い首の折れるほど、十左衛門は低く頭を垂れた。

「それはれることのできないものですか」と主水が初めて口をきった、「なにか※(「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56)れる方法はないのですか」