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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

「友達とは、女どもか」

「やまがの娘たちです、みんな殿さまが好きだし、殿さまもわたしたちを可愛がって下さいましたよ」

「ばかなもんだ」

「なにがですか」

「原田甲斐という男さ」と七十郎が云った、「船岡の館主であり、伊達家の国老ともある者が、猟小屋で山そだちの娘なんぞを可愛がるなんて、いや、あの男にはそういうところがある、昔からそういう妙な癖があった、彼は女には抵抗できない、女に誘惑されると拒むことのできない人間だ」

「お客さんは殿さまを御存じなんですか」

「おまえより古くからだ」

「へえ、お気の毒だこと」とふじこが云った。

「気の毒だって」

「お酒を持って来ます」

「待て、気の毒とはどういうことだ」

「お酒を持って来ますから」とふじこは立ちあがった。

七十郎は盃を置いて、汁椀を取った。干した茸の汁はもう冷えていて、ひなた臭いような味だけが舌に残り、七十郎は顔をしかめた。気の毒に、と彼は口の中で呟き、それから、両手をうしろに突いて、ぐたっと上躰を反らせた。

彼の顔つきは変っていた。額や頬のあたりが尖って、以前のような濶達さや、明るさが感じられない。席次の争いが、いかに彼を疲らせたかということがわかる。