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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

04 第四部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页

青空文庫

甲斐は自分の席で、そっと眼をつむった。

「特に、大老酒井侯にはかかわりの深い品であるが」と安芸は続けた、「老中諸侯において御披見が願いたいと云った、こんど大書院へ呼ばれたら、そのことを忘れないように」

「しかし、――」と外記が問い返した、「それはいかなる物でございますか、その品を知らずに返答は致しかねると思いますが」

「その話しはあとだ」と安芸が云った、「返答はおれの言葉どおりでいい」

外記は黙った。

甲斐は少し仰向いて、眼をつむったままで、片手でふところを押えた。これを見せればわかるだろう、だがいまはそのときではあるまい、と思った。

そのとき五人の侍がはいって来た。その表て座敷から一と間おいた使者の間に、蜂谷六左衛門がいて、その五人の通るのを認め、ものものしい身支度をしているのにおどろいて、思わず立ちあがった。五人は静かに表て座敷へはいったが、はいるとたんに、みんな抜刀し、安芸、甲斐、外記を斬った。

甲斐は眼をつむっていて、突然、肩を一刀斬られ、横に倒れながら「あ」といった。斬られたとはわからなかった。棒で殴られたように感じ、倒れながら見ると、ぎらっと白刃が光った。