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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
04 第四部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 页
――これが叡山へいったら、また僧兵でも起こすのではないかと思う。
玄察はそんなことを云って笑ったが、そのときも彼は唇を屹とひきむすんだまま、いかにも僧兵ぐらい起こしかねないような顔をしていた。
玄知を見送ってから一刻あまり経った。良源院にはもう原田家の宿坊はなかったが、代々の位牌だけは玄察が隠しており、それらを本堂に飾って供養も済ませた。――いまは午後三時。玄知が出立してからまもなく、こまかな雨が降りだして、方丈の前庭にある冬枯れの植込や、石燈籠や敷石道が、その雨にすっかり濡れて、さむざむと鋼色に雨空をうつしていた。
「では宇乃どのは、あれから松山(茂庭家)におられたのですか」
「はい、帯刀さまの奥さま嬢さまがたがお預けになりましたとき、おばあさま、――慶月院さまから、付いてゆけと申されましたので」
「船岡ではずっと御隠居の側にいたと聞きましたが」
「はい」宇乃は答えた、「十五の歳からお世話になっておりましたから、伊達千代松さまへお預けときまったときはぜひお側にと願ったのですけれど、どうしてもお許しがございませんでした」
「御隠居はそのときもう、死ぬ覚悟でおられたのでしょう、たしか食を断って亡くなられたと聞いたようですが」